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高知地方裁判所 昭和31年(ホ)9号 決定 1956年9月25日

被審人 高知双葉講

主文

被審人を過料金五万円に処する。

手続費用は被審人の負担とする。

理由

被審人は、会員相互の融資を業とする講会であるが、昭和参拾年八月弐拾四日その被用人有藤利子(外交員)を解雇したところ、同人は労働組合法第弐拾七条により被審人を相手方として高知地方労働委員会にいわゆる救済命令の申立をし、同委員会は、これを同委員会同年高労委(不)第参号不当労働行為事件として受理し、同年拾壱月弐拾壱日附書面を以つて別紙記載の内容の救済命令をなした。そして、当裁判所は同委員会の申立により、同年拾弐月弐拾七日「被審人は、当裁判所昭和参拾年(行)第壱号行政処分取消請求事件の判決確定にいたるまで、同委員会が被審人に対し昭和参拾年拾壱月弐拾壱日附書面をもつてした命令のうち、同命令書記載の第参項をのぞく部分の全部に従わねばならない。但し、同命令による広告は、本決定が被審人に送達された日から参日以内にしなければならない。」旨の決定(いわゆる緊急命令)をなし、該決定は同年拾弐月弐拾九日に被審人に送達された。

そして被審人は、右救済命令中、解雇取消、復職を命ずる部分については翌参拾壱年壱月六日に、また、解雇取消広告を命ずる部分については同年壱月五日に、いずれもこれが履行をしたが、右有藤利子に対し、同人が解雇された日の翌日即ち、昭和参拾年八月弐拾五日から右解雇取消の日に至るまでの間に受くべかりし給与相当額を支払うべき旨を命じた部分については未だ完全な履行をしていない。

この点に関し、まず、右給与相当額如何について検討することとする。

凡そ、雇傭関係にあつた被用者が使用者に解雇せられた場合に、仮に、被用者が解雇せられず、引続き一定の期間雇傭せられていたとすれば、被用者が該期間に使用者から支給を受くべかりし給与の額如何といえば、それは、被用者が解雇当時支給を受けていた給与の態様、その額の定め方等によつて、異なるというべきであるが、右給与の態様が金銭であつた場合について考えてみるに、その額が月、週その他一定の期間によつて定められていた場合には、右の支給を受くべかりし給与の額は、解雇当時のその期間に支給を受けた金額をその期間の総日数で除した金額を標準として、これを算定するを相当とするのであるが、解雇当時の給与金額の全部又は壱部が出来高払制によつて定められていた場合には、その部分については、右の支給を受くべかりし給与金額は、如何なる標準によつてこれを算定すべきかといえば、それは、解雇前の一定の期間に被用者が支給を受けた給与金額を考慮して、これを算定する外はあるまい。ところで、この場合において、右の一定の期間の長さを如何にし、又、右実績については、支給を受けた給与金の全額を標準とすべきか、或いは、その壱部を標準とすべきかは、現行法上これに関する何等の規定がないのみならず、極めて困難な問題であるが、労働基準法第拾弐条第壱項第壱号、第弐拾条第壱項本文等の趣旨に鑑みると、右一定の期間は、これを参箇月とし、右標準実績額は、右参箇月間に支給を受けた給与額を右期間の総日数で除した金額の百分の六拾とするのが相当であろう。

本件についてこれをみるに、前記有藤利子が解雇当時被審人から支給を受けていた給与は、月四千円(但し、昭和参拾年七月壱日より同人が壱箇月間に募集すべき新規講契約の契約金額の合計額が拾万円に足りない場合は、右不足額壱万円につき、百円の割合で右四千円を減額し、なお、右不足が引続き弐箇月に及ぶ場合は、右四千円を支給せず講掛金の集金額の参歩を支給することに定められた。)並びに月五百円の自転車手当五百円以上合計四千五百円(固定給)及び募集手当(募集した講契約の種類により壱口百円から参百五拾円位の歩合制によるもの並びに壱箇月間の募集契約金高が拾五万円を超えた場合の超過部分に対する掛金額の参歩相当のもの)である。従つて、右命令にいわゆる解雇の日の翌日より解雇取消の日までの間に受くべかりし給与相当額は、これを前述の算定方法によつて算定すると、次のとおりである。即ち、

(イ)  右有藤利子が支給を受けた昭和参拾年七月分の右固定給四千五百円を同月の総日数参拾壱で除した金額即ち百四拾五円拾六銭に解雇の日の翌日即ち同年八月弐拾五日から解雇取消の日の前日即ち翌参拾壱年壱月五日迄の日数即ち百参拾四を乗じた金額即ち壱万九千四百五拾壱円六拾銭(右固定給の内四千円については、右に述べたように、昭和参拾年七月壱日以降においては、新規募集契約高の如何によつて、減額さるべきことになつていたのであるが、後記各証人の各供述によると、昭和参拾年中には、さような事例はなかつたことが認められる。このことから考えると、仮りに、右有藤利子が解雇せられることなく、引続き右の期間勤めていた場合に、同人についても、右の減額は為されなかつたであろうと推認される。それで、右四千円についても、右算定上、これを固定給として取扱うべきである)。

(ロ)  同人が昭和参拾年五、六、七の参箇月間に支給を受けた固定給以外の給与総額即ち壱万参百弐拾五円(五月分七千七百円、六月分八千五百円、七月分七千六百弐拾五円)を右期間の総日数九拾弐で除した金額即ち百拾弐円弐拾弐銭に右百参拾四を乗じた金額即ち壱万五千参拾七円四拾八銭の百分の六拾にあたる金額即ち九千弐拾弐円四拾八銭

右合計弐万八千四百七拾円八銭

然るに、被審人は、前記緊急命令の送達を受けた後、右有藤利子に対し昭和参拾壱年壱月八日八千円を支払い、同年五月弐日高知地方法務局に金壱万壱千八百円を弁済供託したのみで、爾余の部分(ほぼ募集手当等の部分に該当する)の支払をなさず、現在に至つているのである。

以上の事実は(但し、当裁判所の判断を除く)本件記録中の高知地方労働委員会の昭和参拾年拾壱月弐拾壱日付命令書並びに当裁判所の昭和参拾年拾弐月弐拾七日付決定書の各写並びに被審人代表者仲井兼熊の審訊の結果(第壱、弐回)並びに証人有藤利子(第壱、弐回)同横田春喜、同山本正子の各証言および本件記録中の有藤利子作成の計算書により認められる。

なお、本件記録中の昭和参拾壱年壱月七日附通知書によれば、右労働委員会は、被審人は右命令中の有藤利子に対し解雇当時と同一の待遇を命ずる部分についても充分な履行をしていない旨の記載があるが、被審人代表者仲井兼熊の審訊の結果並びに証人山本正子の証言によれば、右有藤利子は復職後においては、同人が解雇前に有していた集金受持口数約四、五拾口より遙かに少ない約拾七口数しか集金受持口数を与えられて居らず、このため給与上非常な不利益を被つている事実が認められるが、右は被審人の故意によるものとは認めがたいし、その他右部分について不履行があるとの事実を認めるに足る証拠はない。

そこで、以上諸般の事情を併せ考えた結果労働組合法第参拾弐条所定の過料額の範囲内で、被審人を過料五万円に処するを相当と認め、非訟事件手続法第弐百七条により主文のとおり決定する。

(裁判官 安芸修 井上三郎 中谷敬吉)

(別紙)

本件救済命令の内容

一、被申立人は、申立人に対する昭和三十年八月二十四日付解雇を取消し、申立人を原職に復帰せしめなければならない。

被申立人は、申立人に対し、同年八月二十五日から、解雇取消に至るまでの間、受くべかりし給与相当額を支払うと共に、解雇当時と同一の賃金、その他の待遇をしなければならない。

二、被申立人は、本命令交付の日から五日以内に、高知新聞夕刊に二段抜き二・二センチメートル以上大で、左記内容の解雇取消広告をしなければならない。

解雇取消広告

八月三十日付本欄の集金人有藤利子殿に対する解雇広告は、全く当方の誤りでありましたのでこれを取消すと共に、御当人に対して著しく社会的信用と名誉を傷けたことを深くお詑び申上げます。

昭和三十年十一月 日

高知市農人町五番地(電四、五四三番)

高知双葉講 管理人 仲井兼熊

三、被申立人は、本件に関して申立人のため証言をした仙頭秋子に対し、その故をもつて不利益な取扱いをしてはならない。 以上

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